ロシア行きのチケット獲得に迫る快勝の裏で、若手とベテランの闘志が交錯していた。サッカー2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会を目指す日本代表は、3月に行われたアジア最終予選の第6戦アラブ首長国連邦(UAE)戦と第7戦タイ戦で、それぞれ2-0、4-0で完勝。得失点差でB組の首位に立った。この2試合でFW久保裕也(23)=ヘント=がフル代表初ゴールを含む2ゴール3アシストを記録し、ニューヒーローに輝いた。一方で、歴代の名FWの仲間入りを果たした30歳の岡崎慎司(レスター)は代表通算50ゴールを達成。選手たちの生の言葉からは、悲喜こもごもの思いが読み取れる。(吉原知也)
ギラギラの新ヒーロー
その嗅覚は本物だ。久保は3月23日のUAE戦で代表初ゴールを決めると、最終予選3試合連続となるスタメン起用となった同28日のタイ戦で2試合連続の得点を奪った。
今年1月にスイスから移籍したベルギー1部リーグでゴールを量産しており、その勢いを代表に持ち込んだ。7歳年上の本田圭佑(30)=ACミラン=を押しのけ、右FWの定位置をつかみ取った。
昨夏のリオデジャネイロ五輪の出場がかなわなかった久保にとって、代表チームはあこがれであり、より成長させてくれる場だ。「試合に出る喜びを感じていて、楽しみながらプレーできている。緊張感のあるチームなので刺激を受けている」と実感を込める。
UAE戦のあと、W杯2度経験の長友佑都(30)=インテル・ミラノ=から「続けていくことが大事」という金言をもらったという。
若武者は普段からポーカーフェースで、ゴール前での落ち着きも大きな魅力だ。存在感を見せつけた2試合を終えても、「絶対的なポジションはないと思う。満足感はないけど、これからも続けていかないといけない」と気を引き締めた。
「昔の自分…」とベテランDF燃ゆ
「見ていて面白い。昔の自分を見ているようで…」
そんな23歳の久保ら台頭する若手を見るにつけ、長友がしみじみと自らの感想を漏らした。
2008年北京五輪を経験し、久保と同じく23歳の時に10年の南アフリカW杯に臨み、全試合出場で16強入りに貢献した。
当時の自分を思い起こし、「南アのときもそうだけど、(本田)圭佑も僕も怖いもの知らずだった。経験がない分、怖いものがなかった」と振り返る。
だが、日本代表の左サイドバックの職人は、ただノスタルジックに浸るわけではない。
「刺激はありますよ。あのときの気持ちを絶対に忘れてはダメだって」。
長友が身に付けた大きな武器は本場欧州で培われた豊富な経験だ。「試合の中で何も見ずにがんがん行くのではなくて、しっかりとチームのバランスを見て勝つために貢献するのが、僕らベテランの役目かなと思っている」と自らの役割について熱っぽく語った。
燃える鈍足ワントップ
台頭する若手の活躍に、サムライブルー屈指の点取り屋が、燃えないわけがなかった。W杯を2度経験し、長らく日本代表の最前線を担ってきた岡崎だ。
タイ戦では、自身の代名詞であるダイビングヘッドで国際Aマッチ50ゴール目の祝砲を上げた。
昨年6月のキリンカップ以来の得点だっただけに、「もう1度FWとしての感覚をよみがえらせる意味でもよかった」という手応えたっぷりのゴールだった。
09年1月のアジア杯最終予選イエメン戦で代表初ゴールを決めてから約8年2カ月。釜本邦茂、三浦知良(横浜FC)に続き、歴代3人目となる国際Aマッチ通算ゴール数「50」の大台に到達した。
「実感はない。自分は生かされてここまできた。『なんでこんなに下手なんだろう』と思っていた時期もあった。もう1回リセットする。毎試合フレッシュな気持ちでやっているので、また積み重ねたい」。
代表50得点の節目もあくまで通過点。飾らず、愚直に語ったその思いには力強さがみなぎっていた。
第8戦は6月にアウェー(中立地)で予定され、ホームで1勝しているイラクとの戦いに臨む。
プライドのぶつかり合いとリスペクトの相乗効果。互いを高め合う日本代表のイレブンはどう進化していくのか。最終予選での激しいレギュラー争いを乗り越えた先に、ロシアW杯が待っている。
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